棚田の一角に建つ、内藤礼と西沢立衛の「豊島美術館」
小豆島と直島の間に位置する豊島。その島の小高い丘にある「豊島美術館」は2010年10月開館。設計は同年に妹島和世との建築ユニット「SANAA」でプリツカー賞を受賞した西沢立衛。
瀬戸内の潤沢な漁場と農産物に恵まれて文字通り「豊かな島」であった豊島。過疎化が進み使用されなくなっていた棚田を再生させ豊島美術館が建てられた。水滴のような白い外観に内部の柱は無く、屋根に空いた2つの穴から建物自体が呼吸するかのように光や風を採り込んでいる。作品は内藤礼の「母型」が展示され、足元の水滴がまるで生き物のように形を変えながら動く姿はとても神秘的。
昔の素朴さも残る豊島の家浦港へは、直島の宮浦港から高速旅客船で約20分。シャトルバスは時間があるため、豊島観光協会で電動自転車をレンタル。美術館への道のりは急勾配が続くが電動自転車のおかげで周りの景色を楽しむ余裕があり、途中で青木野枝の作品「空の粒子/唐櫃」を観る。しばらく進むと下り坂が続き、目の前に広がる瀬戸内海へ飛び込むかのように豊島美術館へ到着。
チケットセンターからは曲線のアプローチを経て、棚田や瀬戸内海の美しい景色を眺めながら水滴を模した外観の入口へ。スタッフに誘導され靴を脱いで中に入るとコンクリート・シェル構造の広々とした空間で、遮るものが何もなくフォルムがとても女性的。継ぎ目のない薄く滑らかなコンクリート屋根には2つの丸い穴があり、空や木が覗いている。靴を脱ぐのは単に汚さないためかと思いきや、よく見ると天井と同じコンクリートの床から小さな水滴がプクプクと湧き出ている。
水滴の正体は繊細で美しい作品を手掛ける現代美術家・内藤礼の作品「母型」。水滴は微妙な傾斜の床をコロコロ流れ、1つの泉となりやがて穴へと消えていく。たったこれだけのことなのに、観ていて全く飽きない。むしろ軽やかに転がる水が意識を持って動いているようで、無心となり見入ってしまう。時々風を感じたり鳥の声が聞こえてくるのも気持ち良く、まったりとした時間を過ごす。
鑑賞後は美術館隣のカフェ・ショップで一休み。ショップはオリジナルグッズや書籍が購入でき、カフェでは棚田で採れたお米や豊島産の果物を味わえる。豊島美術館は小さな島に最高の建築と作品、さらに瀬戸内海や棚田などの環境から“本当の豊かさ”について改めて考えさせられる素敵な場所。
豊島美術館/Teshima Art Museum
- 住所
- 〒761-4662 香川県小豆郡土庄町豊島唐櫃607 < 地図を表示 >
- Tel
- 0879-68-3555
- 設計
- 西沢立衛(日本)
- 公式サイト
- 豊島美術館
- 関連記事
- 自然・アートの水が瀬戸内の文化を豊かにする「豊島」
- 美術館の境界を越える直島「ベネッセハウス ミュージアム」
- アートが新しい風景をつくる直島「ベネッセハウス周辺」
- 現代アートの島、直島のエントランス「宮浦港」
- 直島300年の歴史と記憶を継承する「家プロジェクト」
- のどかな島の風景にアートが共存する犬島「家プロジェクト」
- 90年の時を経て廃墟を再生した「犬島精錬所美術館」
- 棚田の一角に建つ、内藤礼と西沢立衛の「豊島美術館」
- 李禹煥の作品と静かに対峙できる直島「李禹煥美術館」
- 直島の美しい景観に溶け込み光をつなぐ「地中美術館」
- 直島のシンボル「かぼちゃ」などのベネッセハウス屋外作品
- 安藤忠雄設計の直島「ベネッセハウス ミュージアム」
- アートと過ごす至福の一時、直島「ベネッセハウス パーク」
- 直島はSANAA設計「海の駅 なおしま」がお出迎え