90年の時を経て廃墟を再生した「犬島精錬所美術館」

90年の時を経て廃墟を再生した「犬島精錬所美術館」

廃墟となった銅製錬所を美術館として保存・再生した「犬島精錬所美術館」は2008年4月に開館。環境に負荷を与えないよう電気を使わず自然エネルギーだけで館内を快適に保つ設計は三分一博志。

瀬戸内海に浮かぶ周囲約4kmの犬島は岡山県で唯一人が住む小さな島。古くは御影石の産地で栄えたが、近代化に伴い帯江鉱山の製練所が1909年3月に創業。一時は5,000人以上が暮らす島に発展するも、銅価格が暴落してわずか10年で閉鎖。約90年放置され廃墟と化した跡地をベネッセアート直島代表の福武總一郎が買い取り、犬島アートプロジェクトを開始した。美術館は三分一博志の建築と柳幸典の作品で構成され、「遺産・建築・アート・環境」を意識した独特な世界観を表現している。

曇り空も相まって廃墟感漂う入口

曇り空も相まって廃墟感漂う入口

煙突や工場に多用されるカラミ煉瓦

煙突や工場に多用されるカラミ煉瓦

犬島は豊島の家浦港から高速旅客船を使用して約25分で到着。船から降りると民、宿を立て替え犬島の拠点となるチケットセンターが目の前にある。犬島精錬所美術館は時間制のため、チケットセンターに併設しているショップやカフェでのんびりと待つことに。カフェの犬島ぜんざいは小豆汁の中に、白玉ではなくカボチャとそうめんが入っていて不思議な食感。時間となり海沿いを歩いて精錬所の門に着くと看板には錆加工が施され、異世界への入口を主張し曇り空と相まって雰囲気がある。

敷地内はカラミ煉瓦造りの工場跡や煙突のみで廃墟感に圧倒される。カラミ煉瓦とは鉱石の製錬過程から銅を取り除いた後の“かす”からできる煉瓦で、鉄分を含み一つ一つがとても重い。火力発電所跡もあり朽ち果てた様は少し切なくなるが、ヨーロッパの教会のような雰囲気がありとても素敵。ちなみにこの魅力ある場所は、1984年に放送された「西部警察」の最終回ロケ地として使用された。

美術館と煙突、新旧の建物が違和感なく共存

美術館と煙突、新旧の建物が違和感なく共存

非日常的な景色が広がる

非日常的な景色が広がる

犬島精錬所美術館は「在るものを活かし、無いものを創る」というコンセプトをもとに、煙突やカラミ煉瓦、太陽光に地熱などの自然エネルギーを利用して冷たい空気・暖かい空気を作り出し室温を保っている。植物の力を借りた水質浄化システムも導入され、廃墟どころか周囲の環境に負荷をかけない未来の建物は、2007年に経済産業省から近代化産業遺産群(文化遺産)の一つに認定されている。

館内には柳幸典の作品が建築の機能と一体となった6つの作品を「ヒーロー乾電池」と総称して展示。中でも「ミラー・ノート」という作品は、襖の奥に合わせ鏡の要領で赤い文字が浮かんでは流れ呪文のようで少し怖いが、三島由紀夫をモチーフとしたアート空間なので納得。最後に精錬所カフェで休憩したかったが、時間が足りず泣く泣く諦める。次回は滞在時間を延ばして再訪したい。

※2013年3月20日に犬島アートプロジェクト「精錬所」が「犬島精錬所美術館」へ名称変更。

三島文学の作中文を金色の文字にした「ソーラー・ノート」

三島文学の作中文を金色の文字にした「ソーラー・ノート」

犬島精錬所美術館/Inujima Seirensho Museum

住所
〒704-8153 住所:岡山県岡山市東区犬島327-5 < 地図を表示 >
Tel
086-947-1112
設計
三分一博志(日本)
公式サイト
犬島精錬所美術館
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